2009年12月4日金曜日

DCエリア?

Class of 2010 の TMです。

意外と知られていないのですが、メリーランド大学はメリーランド州の南端に位置し、ワシントンDCの中心にあるホワイトハウスまで、車や電車でもわずか40分程度の距離にあります。また、ワシントンDCにもキャンパスがあり、仕事を持つパートタイムの学生が中心となりますが、我々フルタイムの生徒もそこで受講することが出来ます。自然と官庁出身者や、卒業後の官庁へ進む学生も多くなり、先日もCIAのキャリアセッションが開催されていました。
また、比較的学校が多い地区でもあり、地の利を生かして、他校との交換プログラムも充実しています。日本人に有名なジョージタウン大学やジョージワシントン大学でも授業を受けることが出来ます。授業ばかりでなく、ネットワーキングの懇親会や、著名人の講演等で訪問する機会も少なくありません。
少し前になりますが、ジョージワシントン大学に講演に来たムハマド・ユヌスの講演を聴く機会がありましたのでご紹介します。彼が2006年度ノーベル平和賞を受賞したことを知ってからというもの、ずっと気になっていた人物でした。2月には、日本の六本木でも講演をしているようです。本当に精力的に活動しているようですね。
ムハンマド・ユヌスとは、バングラデシュにあるグラミン銀行の創設者。世界でも最貧国のひとつとされる同国で、貧しい人々に無担保で小額の金を貸し、彼らが自活できるように金銭面での援助を行うことが最大の目的です。貸し出されるのはたいていの場合、ひとりあたりたった数十ドル程度で、担保がない貧困層にも、借り手が同性5人一組となってグループを編成し連帯責任を負うことを条件とすることでお金を貸し、それを元に自立を目指すシステムを生み出しました。それがグラミン銀行のマイクロクレジット事業です。
 この手法で、グラミン銀行は多くのバングラデシュ国民を貧困から救ってきました。従来の発想であれば、貧しい人に金を貸しても返済率は下がり経営は成り立たなくなるというのが一般的ですが、実際は、ユヌス氏曰く、貸し出した金の98%以上は利息付きできちんと返済されているそうです。
非常に興味深かったのは、グラミン銀行は、貧困層の中でも特に女性への融資を重視しているとのことです。宗教や古い慣習が根強い残るバングラデシュは男性優位の社会で、お金の管理や買い物ですら、男性が中心となり、お金を触ったことのない女性もいるほどです。当初は男性からの反対もあったようですが、あえて女性へ融資したのは、女性の自立はもちろん、子供たちの将来、しいてはバングラデシュの将来に貢献するためでした。女性は子どもの健康状態や将来の教育を重視しお金を使います。今では、融資を受けている人の95%が女性、そしてその返済率も99%に達しており、男性よりよほど信頼を置ける貸出先とのことです。ユヌス氏は、女性の持つ力を強く信じ支援することで、格差社会及び貧困からの脱却を目指したのです。
今では、活動の範囲を金融から広げ、グラミン銀行のグループ企業は乳製品の仏大手ダノンや仏水道事業会社との合弁で、栄養価の高い安価なヨーグルトや安全な飲料水の提供にあたる複数の会社を設立しています。仏企業側とは、これらの事業から利益を得ないことで合意しているそうです。
ユヌス氏は、講演中でも再三、利益の最大化を目的とするビジネスだけに市場を使ってきた経済システムの再設計が必要だ、と語り、グローバル化や資本主義の現状に疑問を投げかけています。また、「世界中の企業(ビジネス)が資本主義経済の枠組みの中で動いており、そこでの目的は利益を最大化することにある。私は利益を最大化しようとしていないが、私のビジネスは私に幸せを与えてくれる。現在の企業(ビジネス)は、余りに狭く一面的な活動範囲及び目的に固執しすぎている。人間は多彩な視点を持つはずだ。我々が世界で直面している問題は、利益最大化の視点では解決策は見えてこない。多面的な考えを持人間が、ビジネスから得られる本当の幸せは、「利益の最大化」だけでなく、「広く認められた社会的意義の達成」にもあるのだ。だからビジネスにも、利益追求事業と社会事業とがあるべきだ。」と力強く語っていました。
このような活動は、ソーシャル・ビジネス(ソーシャルベンチャー)として世界各地で展開されています。利潤追求を一義とせず、企業活動を継続するために必要な最低限の利潤は得ながら、むしろ社会に貢献できることを目的としたものです。
経済学者であるユヌス氏が畑違いの銀行業を営むことになったその動機は、「わずかなお金で助かる人がいるのなら、やらないわけにはいかない。意欲のある人間は、きっかけさえ与えればみずからの将来を自力で切り拓く。世の中が不公平なのは、そのきっかけすらも与えられないまま、食うや食わずの生活から抜け出せないでいる人々が大勢いることだ。貧困は貧しいから在るのではなく、社会の仕組みにより起こるもので、貧しい人と恵まれた人との間に何の違いも無い。この仕組みを変えることは難しく、手を拱いていては手遅れになるが、少しずつの試みが大きな成果を出すだろう。問題が非常に大きく見えても、簡単な小さな部分から解決していけば、面白いように大きな問題を解決していくことが出来る。正しいやり方でさえあれば、すぐに世界を動かせる」とのことでした。
最後に、ソーシャル・ビジネスの発展、全ての人にヘルスケアのサービスを行き届かせること、そして誰にでも利用可能なITをいきわたらせることが、この世界から貧困を撲滅し、地球環境を修復するために世界を正しい方向に向かわせることの鍵であることを熱弁していました。残念ながら、政府や企業は現状を打開する役割はなかなか果たせていません。ソーシャル・ ビジネスは貧困・格差・環境問題といった資本主義経済の課題を克服し、社会に変革をもたらすかもしれません。

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