2009年11月19日木曜日

ゲストスピーカー

Class of 2010 の TMです

今回は、学校へ多々来るゲストスピーカーについてご紹介したいと思います。
ゲストスピーカーといっても、学校全体、もしくはビジネススクール全体、そして授業の一環として教授がお呼びして来校いただくパターンがあり、例えば学校全体としては、先月はオバマ大統領が、ビジネススクールとしては最近ではかつてノーベル経済学賞を受賞したジョージ・アケロフ氏が、そして授業としてはファイナンスのリスクマネジメントのクラスで、FDIC、Fannie Mae等の役員が来校され、昨年の経済危機の話をしてくれました。政府関係者が来校するケースも多いのは、DCの目と鼻の先という学校の地の利もあるのでしょう。このように、我々生徒としては、毎週のように著名人の講演を聞く機会に恵まれます。

個人的には、学校全体のための超有名人よりも、授業でのゲストスピーカーが非常に楽しみです。というのも、実体験を披露いただくことで、その授業での理論や、ケースで学ぶ企業の成功 or 失敗の理解を深堀するのに非常に役立つからです。先日、ITの授業で、日本でも営業を広く展開しているAmazon.comからPaul Meisner 副社長が来校され、AmazonでのIT活用についての概略を講演してくれました。なぜAmazon?と思ったのですが、どうやら、電子ブックリーダーのキンドル2(単行本サイズで、薄型のスクリーンを持つ読書用のPC)の話題性と、教授の個人的コネクションで招聘した模様です。

Amazonとは、すでにご存知とは思いますが、アメリカ西海岸のシアトルに本拠を構える通販サイトで、1994年のドットコムバブル勃興期に設立、ネット上の商取引の分野で初めて成功した企業の1つです。現在では、DVDや電化製品など様々な商品を扱い、年間売上高は200億ドルを超え、20%近い成長率を維持しています。

我々の最大の強みは、「ロングテール」において最大限の利益を享受していることです。従来の店舗では展示場所及び在庫スペースに制限があるため、その時々で最も売れると思われる上位20%に当たる商品を多く揃えなければならず、その他80%は軽視されることが多かった。例えば、10年前のベストセラーや、学術書など。しかし、Amazonなどのオンライン小売店は、在庫を一元管理していることやネットでの展示のためコストを大幅に削減できること、また物流にかかるコストも従来の小売店と比べて遥かに少ないので、今まで見過ごされてきたその他80%も売り上げとして考慮することが可能になり、そこから、それぞれは小額ではあるものの、長期にわたる多数の売り上げを集積することにより、新たな(大きな)収益源を見出すこととなりました。
それを継続させるための鍵がソフトウエアで、Amazonは単なるネット上の本屋(小売業)ではなくソフトウエアの会社、もしくはソフトウエアを活用した、小売・サービス提供企業である、といっても過言ではありません。一度でもAmazonを利用して購入されたことのある方ならご存知でしょう。顧客の嗜好を読み取り、次の購入へとつなげる仕組み(お勧め)を構築し、また定期的なメール配信等で購買を促進しています。また、過去より在庫管理には徹底した投資をしており、ロングテールにおけるその他80%のニーズを満たすために膨大な量の在庫を抱えていますが、卓越した在庫管理システムにより非常に効率的(低コスト・短時間)な管理が出来ています。

*この点は、小売業の王者であるWall-Martと似ているかと思われます。Meisner氏も今後の他品目展開を踏まえ、最大の競争相手はWall-Martと明言されていました。

アメリカの書籍流通は、出版社(もしくは著者)がリスクをとり、本屋は単なる本を置いておくだけの場所貸しに過ぎません、売れなければ出版社に返品されます。つまり、本屋自体は買取しないため、リスクを負うことはありません。しかしながら、本を積み上げるということはその間場所を無駄に使うことであり、他の本の売れ行き、しいてはみせ全体の売り上げにも影響しかねません。つまり、どの程度仕入れて、どの程度展示するかは、本屋の経営者の裁量となります。一方Amazonでは、ロングテールの効果や(ネット企業であるゆえに)顧客を店の周辺部のみに限定しないメリットもあり、在庫を抱えて将来の購買に備えることができるため、返品することはきわめてまれで、出版社への返品率ははるかに低い数字となっています。通常の本屋の返品率が35%程度なのに対し、わずか数パーセントに過ぎません。これにより、出版者との強固な関係が構築でき数々の新本におけるメリットを享受できるだけでなく、返品等における無駄な本の輸送も省け、環境にもやさしい企業と言えるでしょう。
ましてや、キンドル(デジタル書籍)などであれば、本自体の輸送もすべて削減することが可能となり、また出版社にとってもノーリスクのモデルとなります。ユーザーにとっても著作権の切れた書籍については無料閲覧をすることで、安価で大量の本を読む事が可能となっています。キンドルは既存客を食い合うものでは?との質問を多数受けますが、新たに若年層及びネット世代を読書へと誘導する仕組みとして機能しているといえます。
無料配送について、常に株主やアナリストから利益圧縮の元凶との批判の元になっています。しかし、10年以上続けていることで、かつ利益や成長率も維持しています。我々なりの財務戦略があっての行動しているのです。

AmazonのようなEコマース企業は、てっきり在庫などを極力省き、持たざる経営をすることで、固定費の圧縮、利益の最大化を目指していると思っていましたが、実際は、他を圧倒する在庫及び管理を強みとして、根こそぎ利益を持っていってしまう、そんな仕組みだったとは、小売業での実態に無知であることを恥ずかしく思いました。

なお、販売経路だけでなく商品(本)自体もネット化してしまうという目論見のキンドルですが、残念ながらアメリカでも爆発的な人気とはなっていません。キンドルを持っている同級生にキンドルの感想を求めたところ、機種本体の価格が高いことや、やはり若干扱いにくい(見にくい、ページの検索等に時間がかかる)のがネックなのでは?とのことでした。日本では、購入は出来るようですが、残念ながら著作権の関係で日本語書籍は読むことは出来ないようです。日本の読者は、世界の電子化の流れから取り残されてしまうのでは?との危惧もありますが、今後の展開が楽しみではあります。